原告山口敬之氏 被告大石晃子氏 損害賠償請求事件判決文 7月18日判決言渡 東京地裁 判決文全文

山口敬之対大石晃子判決文
令和4年ワ18626 7部合議A
原告 山口敬之 落合洋司(高輪共同)
被告 大石晃子 佃克彦
 
7月26日提訴、
7月18日判決
7月19日更正
  
主 文
1 被告は、別紙1の記事2を削除せよ。
2 被告は、原告に対し、金22万円及びこれに対する令和4年8月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
 
7月19日更正決定。
上記当事者間の令和4年ワ18626号インターネット記事削除・謝罪文掲載等請求事件において、当裁判所が、令和5年7月18日に言い渡した判決に明白な誤りがあるので、職権により、次のとおり決定する。
主 文
判決主文の第4項に、「 訴訟費用はこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。」とあるのを、「 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。」と更正する。
 
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙1のインターネット上における記事を削除せよ。
2 被告は、原告に対し、金880万円及びこれに対する令和4年8月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告に対し、別紙2記載の謝罪文を、別紙3記載の掲載要領により、別紙4記載の被告が運営するインターネット上のツイッターに一回、1か月間掲載せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項につき仮に執行することができる。
との判決を求める。
 
第2 事案の概要
投稿

令和元年12月19日15時12分

元TBS記者で安倍総理の御用、山口敬之氏。
伊藤詩織さんに対して計画的な強姦を行った。
その山口氏側の敗訴不服の記者会見に、伊藤詩織さんが出席をしている。強くてまっすぐな人だ。たくさんの絶望を支援者と乗り越えてきたんだろうな。」

https://twitter.com/oishiakiko/status/1207544102964740097
2 
令和元年12月19日15時16分

口敬之。
1億円超のスラップ訴訟を伊藤さんに仕掛けた、とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がったクソ野郎。
そんな奴が、安倍政権を支えている。絶対許せない。怒りはこんな言葉では言い表せない。」

https://twitter.com/oishiakiko/status/1207545174387068928
   
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記認定事実に後掲の各証拠を総合すると、前件第一審判決において以下の事実が認定され、前件控訴審判決においても同旨の事実が認定されたことが認められる。
(1) 原告と伊藤は、伊藤が原告に対して就職先の紹介を求めるメールを送信したことを契機に、平成27年4月3日、恵比寿の飲食店で会食をしたが、伊藤は、退店し、原告とともにタクシー乗車した時点において、千鳥足で歩くほど酩酊した状態であった。
(2) 伊藤は、原告とタクシーに乗った際、近くの駅まで言ってほしい旨の依頼に対する運転手の返答を受け、運転手に対し、「それでは目黒駅まで行って下さい。」と述べた。その後、タクシーが目黒駅に到着する直前、原告は、運転手に対し、原告の宿泊するホテルへ向かうよう指示した。これに対し伊藤は、「その前に駅で降ろしてください。」と述べたが、原告は、「まだ仕事の話しがあるら、何もしないから」と述べた。
 タクシーが同ホテルに到着した際、伊藤は自力でタクシーから降りることができず、原告が先にタクシーから降りて、伊藤の左わきに原告の肩を入れて引きずるようにして降車した。その際、伊藤は、足元゛ふらついて単独で歩行するには困難な状況であり、原告は、伊藤の荷物を左手で持ち、右手で伊藤を支えるようにして、原告の宿泊する居室に向かった。
(3) 原告は、酩酊状態にあって意識のない伊藤に対し、伊藤との合意がないまま、避妊具を着けることなく伊藤の陰部に陰茎を挿入する等の性行為に及び、伊藤が意識を回復して性行為を拒絶した後も、伊藤の体を押さえつけて性行為を継続しようとした。
 
2 判断の枠組み
(1) ア 名誉棄損とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受け客観的評価を低下させることをいうが、ツイッターにおけるある投稿の意味内容が、人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該投稿についての一般の利用者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである。
イ 事実を摘示しての名誉棄損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分については真実であることの証明があったときには、上記行為は違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される。
 一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉棄損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。
 上記のとおり、問題とされているツイッターおける表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかについては、一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の文脈や投稿の当時に一般の利用者が有していた知識又は経験等を考慮して、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についてはの事実を摘示するものと解し、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属すると解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。

3 争点1(本件ツイート1の違法性)についてないし本件ツイートにおいて、摘示された内容及びこれによる原告の社会的評価の低下について
 本件ツイート1は、前記事実(2)エのとおりのツイートの一部であって、別紙1記載のとおりであるところ、一般の利用者の普通の注意と読み方を基準にしてみると、本件ツイート1は、前件第一審判決を受けて、被告が原告の行為を批判するものであり、その根拠として、原告が伊藤に対して計画的な強姦を行ったことを掲げているものと理解するといえ、これは原告の社会的評価を低下させるものである。
(1) 違法性阻却事由の有無について
ア 公共性及び公益目的について
 TBSテレビワシントン支局長の地位にあった原告が、就職先に関して相談をしてきた伊藤に対して、合意なく性行為を行ったか否かという事実は社会的関心事であったといえる。本件ツイート1は、当該事項について判断した前件第一審判決を受けてされたものであって、被告は性的加害行為や地位に乗じた加害行為を批判する意味で本件ツイート1を投稿したと陳述書に記載しているところ、本件ツイート1の内容からすると、これは公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものと認められる。
 これに対して、原告は、本件ツイート1は、伊藤の正当性を一方的に擁護し原告をおとしめる目的で投稿されたものであるから、公共性及び公益目的はいすれも認められなと主張するが、上記の説示に照らし、採用することができない。
イ 真実性及び真実相当性について
 本件ツイート1の「計画的な強姦を行った」との表現については、強姦という用語は法的評価であり、また、計画的という用語は多義的であって、具体的事実を基礎とする評価として用いられるものであるため、いずれも証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的または黙示的に主張するものとはいえす、当該表現は、意見ないし論評の表明に属するものと解される。
 そして、被告は、本件ツイート1において、本件前提事実1ないし3を前提事実として、原告の伊藤に対する性行為が、計画的な強姦に当たる旨の意見ないし論評を表明したと主張する。
 本件前提事実1ないし3が、前件第一審判決において認定されており、前件控訴審判決においても同旨の判定がなされ、これが確定したこと(前提事実(2)カ、認定事実(1)~(3))からすれば、少なくとも本件前提事実1ないし3について、これらを真実と信じるについて相当の理由があったものといえる。
ウ 本件ツイート1は、人身攻撃に及ぶなど意見ない論評としての域を逸脱したものとはいえない。
(2) 以上によれば、本件ツイート1は違法性を欠き、原告に対する不法行為は成立しない。
 
4 争点2(本件ツイート2の違法性)について
(1) 本件ツイートにおいて、摘示された内容及びこれによる原告の社会的評価の低下について
 本件ツイート2の内容は、前提事実(2)オのとおりのツイートの一部であって、別紙1番号2記載のとおりであるところ、一般の利用者の普通の注意と読み方を基準としてみると、本件ツイート2は、本件ツイート1が投稿された後に投稿され、原告の名前を記載し、これに続けて、原告が伊藤に提起した訴えは1億円超のスラップ訴訟であること及び原告が人を暴力で屈服させようとする人物であることをそれぞれ指摘しているのであるから、原告が伊藤に対して合意なく性行為を行っておきながら、1億円を超える損害賠償を求める訴訟を提起するといった原告の行為等が、強い非難に値するものであるとの意見を表明したのと理解することができる。
 そうすると、本件ツイート2は、原告が、伊藤に対し、批判等を封じ込めめるために威圧的又は嫌がらせ目的で訴訟を提起したとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させるものというべきである。
(2) 違法性阻却事由の有無について
ア 公共性及び公益目的について
 原告が伊藤に対して合意なく性行為を行ったかどうかという事実が社会的関心事であることは、前記3(2)アのとおりであり、前件訴訟の帰趨は、いずれも社会的関心事であるといえる。そして、被告は、前件反訴の提起が司法制度を濫用するものであり、このことを強く批判するために本件ツイート2の投稿をした旨陳述書に記載しているところ、本件ツイート2の体裁及び内容からすると、これは、原告が提起した前件反訴の問題性を指摘するという目的で投稿されたものと認めることができる。
 以上のことからすると、本件ツイート2は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものと認められる。
イ 真実性及び真実相当性について
 被告は、本件ツイート2において、原告が、本件前提事実4ないし6を前提事実として、原告は伊藤に対して合意なく性行為を行った上に、スラップ訴訟を提起して暴力で屈服させようとしている旨の意見ないし論評を表明したと主張する。
 前件反訴に係る請求は、原告が、伊藤が原告から性被害を受けた旨を著書や記者会見等において公表したこと等が原告に対する名誉棄損に当たるとして、伊藤に対して1億3000万円の損害賠償を求めるものであり、前件第一審判決において当該請求が全部棄却されたことからすれば、本件前提事実4ないし6はいずれも真実である。
ウ 意見ないし論評の相当性について
被告は、伊藤に対して合意なく性行為を行った上で1億円を超える損害賠償を求める訴訟を提起した原告について、本件ツイート2のように表現することは何ら不合理ではなく、論評の域を逸脱するものではないと主張する。
前件第一審判決においては、当時TBSテレビワシントン支局長という立場にあった原告が、伊藤に対して合意なく性行為に及んだと認定され(認定事実(1)~(3))、原告が伊藤に対して1億円を超える高額の損害賠償を求める前件反訴に係る請求が棄却されたところ、前記ア、イのとおり、被告は、これらの事実を前提に、原告の伊藤に対する一連の行為のうち、前件反訴の提起について問題性を指摘する目的で本件ツイート2のとおりの投稿をしたものであって、公共性及び公益目的が認められ、かつ、その前提事実は真実であった。
もっとも、本件ツイート2においては、その内容として、「クソ野郎」という表現が用いられているところ、同表現は、その直前の「とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がった」という表現とあいまって、原告に対する攻撃的かつ激しい侮辱であって、相当なものであったとは言い難い。

また、本件ツイート2は、原告の伊藤に対する態度が強い非難に値するといった趣旨で投稿されたものであることは前記(1)のとおりであるが、被告がツイッターにおいて原告を非難するとしても、「クソ野郎」と言った攻撃的な表現を用いなければ同ツイートの趣旨が一般の利用者に伝わりにくいものであったとはいえない。
以上のことからすると、本家ツイート2は全体として、原告に対する人身攻撃に及んでいるものであるということができるから、意見ないし論評の域を逸脱したものであるといえる。
(3) 以上によれば、本件ツイート2について違法性阻却事由があるとは認められず、名誉棄損による不法行為が成立する。
 そして、上記のとおり、本件ツイート2は、原告に他する人身攻撃に及ぶもので、論評の域を逸脱している表現であって、原告の人格的価値を否定する意味を持つことが明確であるから、社会生活上許される限度を超える侮辱に当たるといえ、本件ツイート2は、原告の名誉感情を侵害するものとしても、不法行為が成立する。
 
5 争点3(原告に生じた損害及びその額)について
 前記3及び4で説示したところによれば、本件ツイート1については名誉棄損による不法行為は成立しないが、本件ツイート2については、名誉棄損及び社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たり不法行為が成立するから、被告は、原告に対して、その損害を賠償する責任を負う。
 他方、本件ツイート2の主要な部分である「1億円のスラップ訴訟を伊藤さんに仕掛けた」という部分は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものであり、その前提事実が真実である意見ないし論評の表明といえるものであるし、「スラップ訴訟」であるとの論評は、その内容が人身攻撃に及ぶものとはいえない。
 以上の検討にその他本件に現れた一切の事情を加味すると、本件ツイート2の投稿により原告が被った精神的苦痛は、金銭に換算して20万円と認めるのが相当であり、また、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては、2万円を相当と認める。
 
6 争点4(被告が投稿した本件ツイート1及び2の削除の可否)について
(1) 人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることかできるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止を求めることができる。そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場や必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、原告が、被告の投稿した本件ツイート2により原告の名誉権が侵害されたとして、本件ツイート2を一般の閲覧に供し続ける被告に対し、人格権としての名誉権に基づき、本件ツイート2の削除を求めることができるか否かは、本件ツイート2によって原告が被る不利益の程度、本件ツイート2を投稿した目的や意義など、本件ツイート2が表示されることによって受ける原告の不利益と本件ツイート2を削除することによって受ける被告の不利益を比較衡量して判断すべきものであって、その結果、本件ツイート2が表示され続けることによって受ける原告の不利益が本件ツイート2を削除することによって受ける被告の不利益に優越する場合には、本件ツイート2の削除を求めることができると解するのが相当である。
(2) 本件ツイート2か、公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的て投稿されたものと認められることは、前記3(2)イのとおりであり、前提事実が真実であり、その一部についは、意見ないし論評の域を逸脱したものでもない。
 他方で、前記4のとおり、本件ツイート2については、名誉棄損及び名誉感情侵害による不法行為が成立し、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ツイート2は、現在もツイッター上において誰でも閲覧可能な状態に置かれているものと認められ、このことからすると、原告の社会的評価の低下及び名誉感情侵害は日々継続しているといえる。また、本件ツイート2は、前記4(1)のとおり、原告の伊藤に対する行為が強い非難に値する旨の被告による意見が表明されたものではあるが、その表現内容は、原告に対する人身攻撃に及ぶ部分も含まれており、全体とし意見ないし論評の域を逸脱していと認められるから、今後もツイッター利用者の閲覧に供し続ける社会的意義は見出し難い。加えて、本件ツイート2の削除権限は、アカウントの管理者である被告自身が有しており、削除したり、不適切な部分を削除した上で再度ツイートの投稿を行ったりすることも容易であって、削除による被告の不利益が大きなものともいえない。
(3) 以上の諸事情に照らすと、本件ツイート2が表示されることによって受ける原告の不利益が本件ツイート2を削除することによって受ける被告の不利益に優越するものと認められる。したがって、原告は、被告に対し、本件ツイート2の削除を求めることができる。
 なお、本件ツイート1においては、不法行為に当たらず、その削除を求めることはできない。
 
7 争点(5)(被告による謝罪文掲載の要否)について
 原告は、被告の名誉棄損行為によって受けた損害を回復するには、損害賠償だけでは十分ではないと主張し、民法723条に基づき謝罪文の掲載を求めている。
 しかしながら、前記4及び5のとおり、原告は、本件ツイート2に関し、被告に対して金銭による損害賠償を求めることができるのであり、これに加えて、前記6のとおり、本件ツイート2について削除を求めることがでぎるなどの事情を考慮すると、原告の名誉回復のために謝罪文の掲載を命じる必要があるとは認められない。
 
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、本件ツイート2の削除を命ずる部分については、仮執行宣言は相当でないからこれを付さない。

東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 荒谷 謙介
   最判官 工藤明日香
   裁判官 海崎新一朗

原告山口敬之氏 被告大石晃子氏 損害賠償請求事件判決文 7月18日判決言渡 東京地裁 判決文全文” に対して1件のコメントがあります。

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