成年後見制度を行政側から考えてみる。

前回では親の介護が始まると共に起こる問題についてお話しました。
そして、この問題に深く関与してくるのが福祉を扱う行政です。今回はそこで働く職員の目線で話をしてみましょう。(架空の人物設定で対話はフィクションです。)

私の名前ですか?田中と申します。ええ、地域包括センターで働くようになってもうすぐ15年程になります。そうですね、ベテランといえるくらいになったかもしれません。
えっと、成年後見制度についての話ですよね?これについて理解は・・?
なるほど、ある程度は知っている訳ですね。
行政からみたこの制度とは?
そうですね、私達は基本、高齢者様や障害がある方達の生活を守る、サポートする事がお仕事なんです。そういった方達が出来ない事、出来なくなってしまった事を代行出来るようにする為の制度が成年後見制度だと捉えています。厚労省は推進基本法も作り、積極的にこの制度利用を国民に促していこうとしていますしね。
でも家庭の事情によって違うのでは?
ええ、勿論そういった各家庭のご事情を把握する事からが、私達のお仕事です。ご高齢になった親御様が抱えている問題、生活面や金銭管理も含まれますから、そのお宅の財政状況、収入の有無などについてもお話を伺いますね。そういったお話を伺ってから、どうしたら良いのか?どういった制度に繋げる事が適正化を会議に挙げて検討しますね。
家族の中で紛争や揉め事があった時にはどうするか?
いえ、そこに介入する事は私達の仕事ではありませんよ。だって、私達の仕事の基本はあくまでも困っていらっしゃる、親御様や障害をお持ちの当事者の方のサポートです。こうした方が安全に安心して過ごされる事が第一目的なんですから。
よくそういった家族の揉め事を介護の話に持ち込んでくる方がいらっしゃいますけど本当に困ります。親御さんにどんなサービスを受けさせるのか、施設なのか在宅なのか、これをどなたかにきっちり決めて頂かないと私達は動けないんです。なのに、相続の話やら今までの親子関係の話まで持ち出して肝心な具体的なお話にならない。中には強引に親を施設に入れてくれと言ってきたと思ったら、別の親族が自分の自宅に引き取る事になったから出してくれなんて言ってくる。驚いた事にそうした親子間の諍いから、高齢の親に暴力までふるう人までいるんですよ。
相続争いから姉妹や兄弟で調停や裁判まで起こして、揉めていらっしゃるお宅まであって、本当にそこに巻き込まれる親御様に同情しますよ。
ああ、話が逸れましたね、そうなったら私達がどうするかですね。
まず、厚労省が出している「後見制度の利用促進に当たっての基本的な考えた及び目標」というのがあるんですが、ご存じですか?
障害の有無に関わらず尊厳ある本人らしい生活を継続する事が出来るよう、社会全体で支えあいながら、ともに地域を創っていくことを目指す事なんです。その地域共生社会の実現の為に権利擁護支援、つまりご本人様を中心にした支援、活動をしていくという考えで私たち、福祉行政はお仕事をしなければいけないという事です。ですから、ご家族の紛争解決よりもまずは、高齢者、障害のある方の身上監護と金銭管理を一番、安全、安心してお任せ出来る方へ繋ぐお手伝いをしなければならない訳です。
だから、そうですね・・・ケースバイケースですが、一旦、引き取って会議にかけて場合によっては成年後見制度の申し立てを市町村長で行う事もあります。
(申し立てに)家族が反対したら?
争いが続いている家族に反対も何もないと思いますよ。だって虐待やネグレクトのような状態でしたら大変ですし、それに申し立て自体にご家族の同意は必ずしも必要ではありません。
それに、ここだけの話ですが、私たちが書く報告書なんて表に出る事なんて、そうそうありませんからね、何を書いても・・・
あっ、ちょっと言いすぎちゃったわ、ここはオフレコでお願いしますよ、変な誤解を招いても困りますから。
申し立ての際の医師による診断書は必要ではないか?
勿論、ご本人様の主治医の方に書いて頂きますよ。まあ、それも医師の方は福祉には疎い方もおりますから私たちが口添えして、なるべくスムーズに制度利用に促す事もあります。あらあら、これも喋り過ぎね。ここもオフレコでね。くれぐれも言っておきますけど、私たちはあくまでもご本人様にとって最適なケアを考えての事で、してるわけですから。
それに、家族、家族と言われますけど、そんな綺麗ごとでは済まない現実ってけっこうあるんですよ。身寄りがない身元引受人すらいない方、それに家族がいて連絡しても、そっちでどうにかしてくれなんて言われる事だってあるんです。そうした方の救いになるのが成年後見制度なんです。
ちゃんとした弁護士、司法書士の先生が身上監護に財産管理までしてくれる訳なんですから。
弁護士の質の問題で左右されるのでは?弁護士による横領事件も起きている。
そりゃあ、そういった倫理観の欠けた方も中にはいるでしょうけど、そもそもこの制度に士業後見人が増えたのは親族による横領が増えたからなんですよ。有名な事件だと福山事件ってご存じですか?それも調べてみてくださいよ。
弁護士に身上監護の意識が薄いようだが。
でも家裁から後見人に渡されるハンドブックには身上監護や財産管理を行い、その内容について毎年家庭裁判所が指定した期限までに報告する必要があると書かれていますからね。ちゃんとされた先生はしっかりされていると思いますよ。
後見人になった弁護士、司法書士とトラブルになったらその相談や解決に行政が介入するのか?
お話を聞く事は出来ますが、私たちに解決することは出来ません。後見人の選任は家庭裁判所が行っています。だから家裁に上申書を出すとかそういった事かしらね。でもあの弁護士が気にいらないなんて、苦情のような事くらいじゃ受け付けないと思いますよ。
そういえばありましたね、家裁に何百回と嫌がらせ電話した姉妹の話が・・・どうしてそんな事になっちゃったのかしら。
制度を一度、利用するとそう簡単に外す事が出来ない事は問題ではないのか?
解任の申し立ては家裁に出来るはずですよ。でも、そこで判断するのは裁判官です。私たち行政側からどうこう言う事は出来ませんよ。

以上、架空のお話として行政側がどう成年後見制度と関わるのかを書いてみました。この制度は親族以外に市町村長申し立てが出来ます。
そしてその数は平成28年は6469件でしたが、令和3年には9185件と増えており、都道府県・市町村・中核機関の権利擁護支援体制の強化という事で令和5年度予算は4.0億円。前年比で約1億円が増額されています。
これを読んでいる方は一度、住んでいる街の役所に行き「両親が高齢になり、お金の管理も大変になってきた。今後の生活が心配だ。」と相談してみてください。きっと、成年後見制度のパンフレットを渡されます。
地域包括センターでもこうした話をしたら、制度についてお話されるでしょう。
厚労省はこの制度をいずれ、全ての人が使える制度にという事で推進しています。しかし、この制度にはいくつもの問題点があり、この制度を使ったが為に家族は引き離され、誰も幸せになれないという悲劇が起こっています。
それは一体、どうしてなのか。次回からはその問題に深く関わる弁護士、司法書士の闇についてお話したいと思います。

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