後見人のお仕事
弁護士、と聞いて皆さんは何を思うでしょう?法律の専門家、トラブル処理。ドラマや映画にも正義感に溢れた弁護士や悪徳弁護士は多く登場しています。今はネット上にも弁護士広告も増えましたね。以前より、私たちにとって、より身近な存在になりつつあるのかもしれません。
ただ、多くの人は自分の人生に弁護士依頼をしなければならない事なんて起きる訳がない、そんな事に巻き込まれる要素なんて自分の生活にはないと、漠然と考えていると思います。私もかつてはそうでした。
しかし、厚労省が推進する「成年後見制度」には弁護士が深く関わっています。一体、この制度になぜ弁護士が関わり、そしてその弁護士の何が問題なのかを考えていきたいと思います。
以前の記事でも書きましたが、成年後見制度は介護保険と同時にスタートしており、高齢者福祉、障碍者福祉と密接に関係します。そして介護の問題は家族と切り離して考える事は出来ません。その家族の誰かが、高齢になり認知症になったり、障害があり財産管理が出来なくなった所でこの制度利用が浮かび上がってきます。
制度スタート時点では後見人は親族が大半でした。しかし、ある一定の地点から後見人が士業、弁護士、司法書士が大半を占めるようになります。理由は親族後見人の横領が多発したから。では、士業による横領はないのか?というとそうばかりではありません。何千万というお金を横領した東京弁護士会副会長もいます。
しかし、現在ではこうした士業が後見人になるケースが全体の8割以上を占めています。
まずは弁護士や司法書士がどうやって選任されるのか、そして何をしなければいけないか、そしてそこで起こっている問題について、順を追って説明していきたいと思います。
様々な理由から高齢者、障碍者に対して後見申立てが4親等以内の親族、行政などから行われると、家庭裁判所は後見人を選任します。それは特定の弁護士団体(日弁連など)司法書士であればリーガルサポートに所属する弁護士、司法書士から選ばれます。そして後見人には後見人ハンドブックなるものが渡されます。
この中には後見人の職務と責任についてこうあります。
成年後見人の職務と責任について
後見人ハンドブックより
成年後見人は、成年被後見人(以下「ご本人」といいます。)の利益を保護するとともに、ご本人の意思を尊重して、その心身の状態や生活状況に配慮しながら、ご本人の身上監護(生活・療養看護)や財産管理を行い、その内容について毎年家庭裁判所が指定した期限までに報告する必要があります。
「身上監護」とは、ご本人の生活にかかる収支を踏まえた上で、ご本人の療養看護の計画を立てたり、医療契約や介護契約を締結して、適正な治療や福祉サービスを受けさせる事です。
「財産管理」とは、ご本人の財産を把握して、適正に保全し、活用する事です。
この職務と責任を故意、過失によって被後見人に損害を与えた時は後見人は賠償することになり、財産の横領があった時は業務上横領などの刑事責任を問われる事があるとも書かれています。
家裁は被後見人の利益が守られているか監督する立場にあり、その為に後見人は被後見人の財産を把握する為に財産目録を作成し、通帳の写しを家裁に提出します。それをもって家裁は後見業務が適切に行われいるか精査します。
ここまで読まれた方は何が問題なのか?ちゃんとした弁護士さんがやってくれるなら良い制度じゃないか、家裁の監督もあるのだから安心だと思われる方もいるかと思います。
一体、現場では何が起こっているのでしょう?
モデルケースとして一つの物語を書いてみましょう。
とある地方都市に暮らすAさん、82歳。現在、一人暮らしです。一人息子は仕事の都合でAさんとは遠方の都市で暮らしています。息子とは電話で頻繁にやり取りはしていますが、生活はAさん1人で賄っています。ただ、最近は老人特有の物忘れもあり、地域の民生委員のすすめで認知症の検査をしました。軽度だという事で投薬治療をしています。今のところ、日常生活には問題はありません。しかし、そんなAさんに市町村申し立てで後見人がつく事になりました。
後見人になった弁護士がまず、する事はAさんの資産全てを把握して家裁に報告する事です。これをしなければ自身の報酬額が決まりません。
報酬は被後見人の資産に依りますが、月に2万から6万(1千万が基準になるようです)
Aさんの通帳は全て弁護士が持って行ってしまいます。これでAさんは自分のお金を自分で使う事が出来なくなってしまいました。
この資産の中でAさんにいくつかの土地所有がある事がわかります。
次に弁護士はAさんを施設入所させます。
ちょっと待って!後見人である弁護士に被後見人の居住区を決める権限はないはずでは?
確かに通常、弁護士に被後見人の居住区を決める権限はありません。ただし、被後見人が安全に福祉に関わる理由で現在の居住区での継続が難しい場合、裁判所は後見人に対して新たな居住区の選定や変更を命じる事があります。つまり、後見人である弁護士が裁判所に対して、Aさんが一人暮らしする事が困難な状況であると申告し裁判所がそれを認めれば施設入所させる事が出来てしまうという事です。
施設に入所したAさん、新しい生活に中々馴染めません。遠方に住む息子への電話も思うように出来ないし、息子も面会に来ません。後見人になった弁護士も一度も面会にも来ません。何度も職員に家に帰りたい、息子を呼んでとお願いしますが、誰も言う事を聞いてくれません。
これは後見人の善管注意義務違反にあたるのでは?
善管注意義務は法律上の原則であり、特に信託や代理など他人の利益を管理、代行する立場にある者に対して課される注意義務です。
あまりに強引なやり方のようにみえますが、弁護士からすると、財産管理をし、施設入所させた事で適切な身上監護も行われている。善管注意義務はしっかり果たしていると認識していると思われます。
なぜ息子さんが面会出来ないの?
これは弁護士が故意に知らせていない場合もあります。親がどこの施設に入所したのかすら、子供、親族に知らせなくとも大丈夫という事がまかり通っています。理由は「後見業務に支障をきたすから」この一言で裁判所も認めていたケースもありました。
次に弁護士はAさんの持っていた土地の一部を処分する事にします。
勿論、後見人ハンドブックには「ご本人の居住用不動産の処分が必要になったときは、家庭裁判所に対して「居住用不動産処分の許可の申立て」をして下さい。後見人が家庭裁判所の許可なく勝手に処分してはいけません。」
とあります。でも、親族の許可は?そこは裁判所の判断に全てお任せするしかないのが現状です。そして裁判所は弁護士が相応の理由を付けた書類を出してくれば、ほぼそれに従うと思います。土地を売却した事で弁護士には相応の手数料として報酬がAさんの口座から支払われます。
施設入所してから、すっかり元気がなくなってしまったAさん。風邪を引き熱を出し、肺炎の恐れも出てきたので入院する事になりました。救急車で搬送され、後見人である弁護士にも連絡が入ります。しかし、自分には医療同意権はないと病院へも来ないし、入院手続きもしようとしません。仕方なく遠方に住む息子さんが上京し、こうした手続きをする事になりました。
後見人に医療同意権がない?
確かに医療同意権はありません。入院保証人にもなれないし、延命治療の有無についても同じくです。しかし、社会的常識で考えて入院先まで来ないという事があり得るでしょうか?しかし、こういった弁護士が多い事が実情です。
ここで後見人としての弁護士の仕事ぶりを振り返ってみましょう。
・被後見人の総資産把握
・被後見人を身上監護の為に施設入所
・面会交流なし
・親族への面会妨害
・被後見人の不動産売却
・医療同意権がない事の行使
・年一回、家裁への報告書の提出
これで年間多ければ60万以上の報酬が貰えます。
尚、被後見人の収支報告の際に、10万以下については領収書が要らない事になっています。
これが裁判所が定める、後見人の職務と責任でしょうか。
しかし、弁護士からすると何ら違法な事をしているという認識はないです。なぜなら、こうした事を全て裁判所が認めているからです。
それに後見人が不法行為を働き、被後見人が不利益を被った場合に、訴訟を起こしたくても被後見人には
訴訟する権利がありません。
民事訴訟法第31条で未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
とあるため、訴訟行為するには後見人を解任しなければなりません。
しかし、この解任を判断するのも裁判所です。
次回はこの裁判所、主に家庭裁判所と成年後見制度について考察してみようと思います。